古今亭志ん八 独占インタビュー(2)

人の悪口を絶対に言わない。聞いたことがない。そこが一番かっこよかった。

― 前座時代の思い出は?

 

顔が怖いのが、うちの師匠なんですよ。長いし顔が。東南アジアのお面みたいな。眉毛も太くて、目玉もぎょろっとしてるし。1年くらい経ってからですね。あ、師匠の怖い顔は怒ってるわけじゃないんだ。何にも考えてなくても、あの顔なんだ!って判明したのは。その事をたまに思い出しますね。

 

― ブログには「師匠の背中は大きくて、噺家としての生き方やニオイを教わりました」とありました。志ん五師匠は、どんな方でしたか。志ん五師匠の教えで、一番心に残っていること・言葉などありましたら、教えてください。

 

基本、喋らない人なんですよ。喋るのは仕事の時、高座の上だけ。あとは終始無口。家では「おい、お茶」とかそんなくらい。二人で移動中もちっとも喋らない。一転、楽屋ではよく喋る人でした。師匠はお酒を飲まないんですが、お酒を飲む人以上に喋って場を沸かせる人でした。楽屋中のみんなを笑わせてましたね。そういう人でした。あと、人の悪口を絶対に言わない。聞いたことがない。そこが一番かっこよかった。それは僕も見習ってます。

 

芸の上では?そうですね…これは師匠にしか言われたことがありませんが、弟子になって、ある日稽古を付けてもらってたら。いきなり「お前、もっと、こんな風に眉毛が動かない?」って言うんですよ。で、僕が「こうですか?」(ここで眉毛を上げたり、眉間にしわを寄せたりする志ん八さん)ってやったら、「そうそう。それだよ。できるじゃねぇか。それやれ!」って。それは師匠の芸なので、今僕はやっていませんけど、ヒントにはなっています。

 

― 志ん五師匠に教わった最初の噺は?

 

「道灌」を一番に教わりました。僕は27歳で入門が遅かったから若いうちに数を増やせって言われて、1年間の見習い時代、師匠に10席くらい教わりました。その後は師匠が「この噺は、この師匠んとこに行って教わってこい。」って出稽古に行かせてくれたんです。

 

※ 「道灌」:どうかん。隠居の家に遊びに行った八五郎。太田道灌が山中で村雨(にわか雨)にあった時の様子を描いた屏風絵を見つけて…。

 

― 出稽古で一番思い出に残っている師匠は?

 

今の師匠・志ん橋ですね。

 

― ほう

 

(志ん橋)師匠の教え方は三遍稽古(※)なんです。当時は1つの噺を覚えるために毎日通っていました。三遍って言ったって3回で終わる訳がないんです。何十回も通う。実質、十遍稽古、十五遍稽古くらいです(苦笑)。十五回通ってやっと覚えたのは(あげてもらえたのは※)「手紙無筆」です。最近は(高座で)やってないですが、不思議なもんで、三遍稽古で覚えた噺って忘れないんですよね。からだに(深く)入るんですかね。当時は今の師匠になるとは思ってませんでしたからね。(志ん五)師匠が、こんなに早く亡くなるとは思ってもいませんし。だから、不思議な縁を感じています。

 

※  古今亭志ん橋:六代目しんきょう。三代目古今亭志ん朝師匠の弟子。古今亭志ん輔師匠の兄弟子。スキンヘッドがトレードマーク。

※  三遍稽古:さんべんげいこ。教えてくれる師匠は、習いに来た噺家・弟子の前で三日間にわたって同じ落語を三遍演ってくれる。メモはせず、ひたすら、聞いて見て覚えるという稽古の(オールド?)スタイル。前回出演の歌太郎さんも、志ん橋師匠に三遍稽古付けてもらったと証言

 ※ あげてもらう:教わった噺を習得したらから「もう、高座でやってもいいよ」という許可を出すこと。「あげてもらう」=「やってもいいよ、というお墨付きをいただく」こと。本来は、このお墨付きが出ないうちにお客様の前でやるのはだめ。

※ 「手紙無筆」:てがみむひつ。知ったかぶり、物知り顔の甚兵衛さんの所へ、知り合いの男がやって来て手紙を読んでくれと頼む。ところが、どちらも字の読み書きができない人間で…。

 

もうね、自分が落語みたいな人なんですよ。本一冊書けるくらいのエピソードを持ってますよ、僕は。

― 現在の師匠、志ん橋師匠とはどんな方なのですか

 

今の師匠の志ん橋にはいろんな影響を受けてますね。志ん五亡き後、志ん橋に弟子入りして、「世の中にこんなに面白い人がいたんだ!生き様が落語そのままだ!」って思いましたね。

 

先日もですね。僕が師匠の車を運転してたときのことです。鞄持ちとして一緒に行動してたんですね。で、ある場所に近道がありまして、ちょっと狭い、車幅ギリギリな場所なんですけど、そこを行きに通るとき、師匠が「おい、ここ(車幅ギリギリだから)ミラー畳め。徐行で行け。擦っちゃうからよ」っていうわけです。で、僕は「はい」ってミラー畳んで、ゆっくり徐行で通り過ぎる。で、その日の仕事終わり。師匠が「帰りは俺が運転するから。お前は助手席座れ」って言うんですよ。で、僕は「はい」って助手席に座って。今朝来た道と同じ道を帰っていく。でミラーを畳まずにガリガリガリ!って、「あ、いけねぇ」って師匠(笑)。もう僕は心の中で(嘘でしょ?)って。あんなに僕に注意してたのに、って。もうね、自分が落語みたいな人なんですよ。本一冊書けるくらいのエピソードを持ってますよ、僕は。

 

これまた別のエピソードですけど。ある時、高座と高座の間が空いた日がありまして。「うちでお茶飲んでけ。外でつなぐ(※)と金がかかるから。うちでお茶飲んでけ」って言ってくださった時がありまして。その日、BSで映画「サウンド・オブ・ミュージック」をやってたんです。「おい、志ん八。お前、これ観たことあるか?ないのか?馬鹿!お前、これはいい映画だから観とけー」って言うから二人で観てたんですよ。字幕版の。

 

当時、師匠は猫飼ってまして。チョコちゃんという猫。その猫が師匠の膝の上にニャーってやってくるわけですよ。で、一回目は師匠、「チョコちゃん、いま映画を観てるからだめー」って追い払ったんです。でも猫ですからね、しばらくするとまたやって来て、ごろごろ甘えだすわけです。で師匠が追い払う。その繰り返し。何度目かのことです。またチョコちゃんやってきて、師匠の膝の上にごろごろごろ~。したら、師匠、「ノー!」って(笑)。「ノー!」って言ったんですよ。ずっと英語聞いてるもんだから、仕舞いには「ノー!」って言っちゃった(笑)。

 

(ここまで、志ん八さんは、志ん橋師匠の声真似を交えつつ熱演。志ん八さんは物まねも上手い!)

 

います?こんな人。居ませんでしょう?そんな師匠です。これが毎日あるんですよ。毎日。口癖は「芸人は馬鹿になれ」ですからね。外から見てるときはいわゆる“天然”って部類かと思っていましたが、違うんですね。「落語家は文化人になるな。馬鹿でいろ。その方が可愛げがある。可愛がられる。文化人みたいになって偉そうなコトを言うな」って。だから今日の、こういうインタビューもそうです。苦手だし、正直、あんまり語りたくないんですね僕は。

 

― わかります。我々も、落語家さんの芯に迫るのを躊躇うことが多々あります。(こんなこと聞かない方が、知らない方がお客さんは笑えるんじゃないか)とか。聞いたことを伝えることで、お客さんに余計な先入観を与えてしまうのではないか、とか。

 

※ つなぐ:次の出番まで時間を潰すこと。

 

志ん橋が面白いのは、どこまでが演技で、どこまでが素なのかわからないって点です。そういうこと(説明・考えの吐露)を一切、外に言わずにやってきた落語家ですからね。そんな人が落語やったら、そりゃ面白いに決まってます。

 

― そもそも、なぜ新作(創作落語)を手掛けようと思ったのでしょうか。そのきっかけや、師匠の反応を教えてください。

 

古典落語も、生まれた当時は新作落語だったわけですから、当時から興味はありました。古典ネタを100席は覚えてから、新作に手を出そうと思っていました。それを超えたのが二つ目になって3年目のことです。まず古典をある程度しっかり覚えてからじゃないと新作って踏み込んじゃいけない領域みたいに思っていたんです。自分で実際につくってみると「古典落語って、こんな風につくられていたんだな」ていうのがわかったりしてきて。古典を演る上でも役に立ってきています。

 

― 以前、くがらくにご出演いただいた(古今亭)駒次(※)さんがインタビューの中で「(志ん八さんに対して。僕と違って)古典が上手いんだから、もっと古典をやるべきだ」とおっしゃっていました。古典についてのお話を聞かせてください。個人的には、ここに来て、意欲的に古典落語に向き合っていらっしゃるという気がするのですが、その辺、いかがでしょうか。

 

同じようなことを最近、よく言われるんですよね。僕は自分で意識は全くしてないんですが。「シブラク(※)」のプロデューサーのサンキュータツオ(※)さんが、小さい小屋の落語会でもまめに足を運んでくださいまして。たまたま僕が古典をやった会に来てくれたんです。で、その後に「志ん八さんの古典はすごくいい。シブラクでは古典をお願いします」て言われまして。それで僕、シブラクでは古典縛り(古典のネタを演ることが条件)なんです。僕のシブラクでの高座をポッドキャストで放送してくれたりして。それを聞いた主催者の方がまた「古典をお願いします」ってなって。それで最近、古典が多くなりました。たまたまです。

 

― 新作はどんな感じ、どんな周期で作っているのですか?

 

以前は、新作は月に一本つくる!って決めてました。近頃は作りたくなったら作ります。駒次は凄いんですよ。彼は発表する日を決めて、それに向かって作っていく。僕にはそんな芸当は無理。常に未発表のネタを5~10本、ストックとして抱えておいて、“新作ネタおろし”という会になったら、その中から選んで出すというスタイルです。

 

― 今現在、どの噺をやっているときが一番楽しいですか。新作・古典ともに。

 

特にないんですよね。その都度、お客様も、空気も、空間も違いますから。同じネタをしても反応が全然違う。それを楽しんでる感じです。その都度、発見や気づきがありますし。

 

※ 古今亭駒次:ここんていこまじ。第8回くがらく出演者。若手新作派の代表格。特徴はストーリーテラー(話のうまい人。 筋の面白さで読者をひきつける作家)としての秀逸さ。

※ シブラク:渋谷のライブホール『ユーロライブ』で毎月開催されている落語会。渋谷らくご。キュレーターはサンキュータツオさん。

※ サンキュータツオ:漫才コンビ「米粒写経」のツッコミ。オフィス北野所属。落語に造詣が深く、日本語学者でもある。

 


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。志ん八さんの素顔、そして本音。

古今亭志ん八 独占インタビュー(1)

 

古今亭志ん八 独占インタビュー(3)

古今亭志ん八 独占インタビュー(4)

古今亭志ん八 独占インタビュー(5) 

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