柳家小太郎 独占インタビュー(3)

人間としてのリハビリ期間。ありがたかった前座修業。

― さっき小太郎さんが仰った“リハビリ”は、もう終わったんじゃないですか?

 

そのつもりなんですけど、やっぱりまだね。なかなか根っこまで治ってるかどうか、怪しいところでして。今でもよく怒られますしね。「怒ってもらえるのも、ありがたいだんぞ」って、よくみんな言うじゃないですか。以前は、そんな風に思ってませんでしたが、最近は、なんとなくわかるようになってきました。ありがたいんだなと。

 

― 小太郎さんも将来、弟子をとるでしょうしね。

 

いやぁ、どうでしょうね。そうなりゃ、面白いですけどね。自分に弟子を怒れるだろうか、って思いますね。我慢してドカンと怒るよりも、ちょこちょこ怒ってくれた方がお互いのためだと思うんですよ。でも、それってお互いに骨が折れる作業と言うか、ちょいちょい関わり合い続けないといけないじゃないですか。それ(弟子を叱るという行為)は大変な作業だなと思うわけです。

 

弟弟子が入ってきてから気づくようになりましたけど。弟弟子が(自分と)まったく同じ失敗をして怒られたりしてるわけです。それを師匠とおかみさんは、弟子の数だけ続けている。何十年も一文の得にもならないことを、一門のためにやってるわけで。それはもう、本当にありがたいことだと思いますよ。永遠に立て前座(※)をやっているようなものですからね。

 

※ 立て前座:その日、寄席で働く前座のうち、もっとも香盤が上の前座さん。楽屋での下働きのリーダー的存在。ネタ帳にネタを記録するのは立て前座の仕事。

 

お金を払って聞きに来る人がいないと成り立たない商売ですから。

― 噺家さんのすごいところは、お客さんの前で芸を披露する・噺をする。私などは恥ずかしくて無理なのですが、弟子入りする時に、そういう気持ちは、どこかにありませんでしたか?

 

思わなかったですね。今なんかもそうじゃないですか、(取材で)写真を撮られているのは恥ずかしくて、嫌だなと思いますけれど、でも必要に迫られてるときはやらざるを得ない。私も噺家だから喋れるわけで、逆に会社勤めの方が、みんなで会議とかしている時に「私こう思います!」って喋るのは、私は照れちゃいますよ。

 

― すべての噺家さんに対して思いますけど、人前で話をして笑いを取るっていうのはとても大変なことだと思います。

 

そうですね。でも、そこで一番すごいと思うのは(それで)お金が発生するということですよね。人前で話をすることが仕事になるという。お金を払って聞きに来る人がいるわけですから、そっちの方がすごいなと思います。ありがたいことです。それ(その関係性)がないと成り立たない商売ですから。

 

― 師匠の教えで一番心に残っていること、言葉などありますか。

 

芸の上のことや、人間的なことなど、何から何まで教わってますけれど、一個これっ!てのは難しいです。入門して十何年ですが、それで人生が変わったわけですから。落語家になるなんてちっとも思ってなかった男が、こうして落語家になってるわけですから。なんかこれ!っていうのはちょっと難しいなと思う。なんかあるとおもしろいんですけどね。

 

― 「ビビビ」でしょうね。

 

そうなんですよね。自分はあまり感覚で動くタイプではないと思ってましたよ、ずっと。割と屁理屈こねたがるタイプですし、あーでもない、こーでもないと考えた挙句、結局やらないことが多い。でも、ビビビときただけで動くこともあります。理屈で否定できたらやめる。否定できないと動く。

 

― そんな、大好きなさん喬師匠。師匠に初めて教わった噺はなんですか?

 

「小町(※)」ですね。「道灌」の前半で切るやつです。柳家の人は、大体そうなんじゃないでしょうか。

 

※ 「小町」: いま一般的によく聞くことができる「道灌」は、実際は噺の後半部分。「道灌」の前半が“小町”と呼ばれる前半。「道灌」をフルで演ると意外に長い噺に。

 

― 最近師匠から教わったのはなんですか?

 

「時そば」じゃないかな。江戸の普通の。後輩が教わりたいって言ってきて、私も持ってないので師匠に「一緒に教わっていいですか?」って。

 

※ 「時そば」:冬の寒い夜、夜鷹そばとも呼ばれた、屋台の二八そば屋の屋台に飛び込んできた男が一人。とんとんとんと立て板に水の会話。上手いこと小銭を騙した。それを見ていた男が真似としようとするが…。

 

どっか激しくしたいと思っている。明るく・楽しいだけじゃなくて。

― ご趣味は?

妖怪とプロレスくらい。

 

― 時間が空いたら、することは?

寝てますね。あとは、本を読むか。プロレスの映像見るか。

 

― 趣味の一つ、プロレスについて教えてください。プロレス好きになったのはいつ頃ですか?もっとも好きなレスラーも教えてください。

 

本格的にプロレスを見るようになったのは小学4、5年生頃ですかね。夕方に放送していた新日本プロレスリングを見て好きになったんじゃないかなあ。でも今は全日派ですね。当時見ている分には新日の方が面白かったんですけどね。今、YouTubeなどで昔の試合も見れるじゃないですか。新日はセンセーショナルなんですけど、この後どうなるんだろう感が希薄な気がします。全日(全日本プロレス)の方が全体的にクォリティーが高いような気がしますね。前後の情報関係なしに試合として楽しいですし。

 

― 小太郎さんのモットーである、「明るく・楽しく・激しい落語」。“激しい”とは、例えば、どんな落語を指しているのでしょうか。動きが激しい?過激? 

 

これ、全日の標語なんですよ。そこからいただきました。どう激しいと言われれば困るんですがね(苦笑)。どっか激しくしたいと思っている。明るく・楽しいだけじゃなくて、何かこう・・・。それが個性なのか、毒なのかわからないのですが、ただ明るく楽しいだけよりも、なんか深みがあるように思えるので。

 

― 表現はあれなんですけど、(小太郎さんって)ざらっとしてると思うんですよね。上手な人でも、つるっとしてて、上手ですねで終わっちゃう方もいると思うのですが、小太郎さんはご自身でも「天邪鬼だ」と仰っているように、ふてぶてしさというか、人を喰ったような、ざらっとした感じがあります。素人目に見ても、噺家さんには、それはとても大切なことなのではないかと思います。

 

そう思っていただけると、ざらざらしててよかったなと思います(笑)。

 

― 天邪鬼なのは、昔からなんですか?

 

自分は素直なつもりですが、わかってもらえないというか。自分では普通だと思ってるんですけどね。なんか、ひねくれたんでしょうね(苦笑)。

 

― 本は、どんなのを?

何でも読みますが、妖怪関係の本とか、小説。エッセー。

 

―好きな作家は?

江戸川乱歩町田康さん。東海林さだおさんの食のエッセーもすごく好きです。今年に入ってからは、北方謙三さんの「三国志」とか「水滸伝」を。むちゃくちゃ長いですが、あれをずーっと読んでます。

 

― 水滸伝といえば、(兄弟子である喬太郎さんのところに)「寿司屋水滸伝(※)」を教わりに行ったりなどは、しないのですか?

 

喬太郎兄さんの新作は、「このネタ、やってみたいな」っていうのはたくさんあります。でも、まだ自分に早いなと。自分なりに、もっとできるようになってからやりたいですね。

 

喬太郎兄さんは時代を切り取るのがとても巧いじゃないですか。ちょうど同じ世代の人が聞いていて、(そうそう!あるある!)と思えるような要素が入っているので、自分みたいな年が違う人間が、同じようなこと言ったって興ざめしちゃう気がします。かと言って、自分の時代に置き換えてやるのではなく、自分でこうやってみようって決めてから教わりに行きたいですね。「路地裏の伝説(※)」とか。自分だったら、こんな都市伝説でやってみたいとか、自分ならではのエピソードに変えて。

 

※ 「寿司屋水滸伝」:柳家喬太郎の新作落語。中国の伝奇小説『水滸伝』は、梁山泊に流れ集まった108人の豪傑たちを描いた話。一方、「寿司屋水滸伝」はタイトルどおり『水滸伝』をベースに、現代日本の寿司屋に集まった個性的な職人たちを描いた、ナンセンスギャグ満載の人気代表新作。

※ 「路地裏の伝説」:柳家喬太郎の新作落語。久しぶりに集まった幼なじみ3人。かつて地元でささやかれた都市伝説。幼き日に抱えたトラウマ。押し入れから出てくる亡き父の日記。そこには驚愕の事実が…。余りの面白さに絵本にもなっているほど

 

― 人情噺は、いかがでしょうか

もともと、そんなに好きじゃありませんでしたが、最近はやるようになってきています。

 

― なにか心境の変化があったんですか?

 

大人になったんでしょう。舌が変わってきたんです。だんだん。やる側の目線になってきてるのかな。聞く側の立場としてはもともと好きじゃなかったんです、人情噺も怪談も。先ほども言いましたが、軽い噺で笑って、くだらないねえ!と終わるのが好きなんで。実際、それってすごく難しいんですよ。すごく長くて泣かせる噺をするよりも、軽くてふわふわしたネタをふわっとやっちゃうほうが難しい。相対的なものなのか、絶対的なものなのかわからないですが。結果、食べず嫌いはやめようと思って来て。

 

― ほかにも「食べず嫌いで、どうの~」ってのはありますか?

 

すべてのネタに対して、そう思ってます。食べず嫌いはやめようと。先入観を持たずに、フラットに向き合わないとな、と。「自分の好きなネタを演ったからって、好きな師匠みたいにできるわけじゃないんだから、ちょっとやだな」とか、「何が面白いんだか、よくわかんないな」と思ったネタでも、不思議なもんで教わってるとき、テープ起こししてるときなどに、(あれ?これ俺に合ってるな)と気づくときもあるんです。そして、その感覚は間違っていない。一度でも、そう感じたら、もう、しめたもんです。

 

逆に、好きなネタを、「あれ?これ俺に合わないな」っと感じてしまうと、もうだめですね。合わないですよ。なので、食べず嫌いはしないようにしています。誰か他の噺家と一緒に教わる機会があれば教わる。「やってごらんよ」って言われたら、必ず聞いてみます。そこは先入観だけでなく、必ず一回身体を通そうと思っています。

 

― プロレスファンとしては、「小ぞう」と名前が付いたときには、うれしかったのでは?

 

はい。「お前は小僧にしか見えないから(前座名は)小ぞう(小僧)だ」って理由からなんですけど、こっちはダイナマットキッドが好きでしたから、「キッドだ!小僧(小ぞう)だ!超いい名前もらった」と思って、勝手に自分の中で盛り上がってました。

 

※ ダイナマットキッド:イギリス出身の大人気プロレスラー。日本では、リングネームを直訳し「爆弾小僧」と言われた。当時のタイガーマスクと人気を二分し、後世のレスラーらにも多大な影響を与えた。

 

― 好きな言葉、座右の銘などお持ちですか?信条とかポリシーとか哲学とか。

 

ルー・テーズの「バッドロップは、へそで投げろ」ってのは名言だと思います。よくわかんないですけど(笑)、深みのあるいい言葉だなって思います。「そうか、へそで投げるのか」って。ジャンボ鶴田も継承してますしね。そのコツをつかむ前のファンク道場仕込みのバックドロップは、全然痛そうじゃなかったじゃないですか。俺も、へそで投げようと思ってますよ。

 

※ ルー・テーズ:不世出のレスラー。日本では「鉄人」の異名を持ち、多くのレスラーから20世紀最強であるといわれた。テーズは「バックドロップ」という技の元祖であり、威力を世界中に広めたレスラー。後にアントニオ猪木やジャンボ鶴田が使用し広く他のレスラーに浸透するのが「ヘソ投げ式」。