柳家小太郎 独占インタビュー(6)

― どういうときに「柳家小太郎」と、「塚本洋平」のスイッチは変わるのですか?

芸人って意外と、公と私が分かれない生き物じゃないかと思いますね。昔、グレートサスケ(※)が言ってました。本当に、そうだなと思います。

 

※ グレートサスケ:日本の覆面レスラー。元岩手県議会議員。 ウルティモ・ドラゴンスペル・デルフィンと並びジャパニーズ・ルチャの立役者の1人

 

― 小太郎という名前について。

 

これはもともと前座の名前で。柳家に代々伝わっているそうで。何代目っていうのがないんですよね。6代目の小さん師匠(※)や、亡くなった4代目の三木助師匠(※)が、前座の時にお使いになっていた名前です。左龍兄さん(※)が、私が入門した当時はまだ小太郎でした。

 

前座~二つ目まで小太郎を使っていて、二つ目で小太郎を使ったのは初めてに近い形ではないでしょうか。自分が二つ目が決まったとき、「欲しい名前、なんかないのか?」と聞かれたんです。そのときに実は(小太郎が欲しいなあ)とは思っていました。ですけど、如何せん、左龍兄さんがお使いの名前ですから。…ちょっと(時期的に)近すぎるから、もらえないだろうなと半ば諦めていました。そしたら、あれよあれよと、もらえることになりまして。うれしかったですね。良い名前を頂戴したなと思っています。二つ目から(小太郎を)継いだ人は、とても少ないんじゃないかと思います。

 

※ 6代目 柳家小さん:父は人間国宝の5代目柳家小さん。中学校卒業後、実の父である5代目小さんに入門して柳家小太郎を名乗った。

※ 4代目 桂三木助:同じく、人間国宝5代目柳家小さんに入門。前座時代に柳家小太郎を名乗った。

※ 柳亭左龍:りゅうていさりゅう。兄弟子。さん喬一門、2番目の弟子。

 

― 真打になったら(名前を)変えますか?

 

変わると思います。前座の名前ですから、小太郎ってのは。ただ、こればかりは自分の一存で決めることではないので。江戸には前座・二つ目・真打という階級があるので、変えるならこのタイミングしかないですから。前座の時は「(柳家)小ぞう」でしたから。「小ぞう」のままでいいんじゃない?って言う人も多かったんですが、いまは変えてよかったと思っていますし、きっと変わるでしょう。

 

― 欲しい名前はありますか?

 

ほんとに何もないです、欲しい名前は。自分が自分をイメージする名前と、人が自分をイメージする名前とでは、違うと思うので。ついちゃえば自分の名前なので、なんかいいのが付くといいなと思います。格式とかではなくヒットする名前。

 

客席の体温測定器?小太郎さんだけの決め技「ダブルピース」

― 小太郎さんは高座登壇時のダブルピースが、キメポースですが、それについて教えてください。ああいうことをするのは小太郎さん以外に知りません。ユニークだし、高座と客席とが一体になるし、素晴らしいと思うのです。誕生のきっかけなど。

 

いつでしょう。二つ目の3,4年くらいしてからかなあ。決め技みたいなのを使う人がいて、“つかみ”で。いいなと思っていて、自分でいろいろと試行錯誤しました。なにか、イージーにできないかなと思って。なんかの時に、ふと自分でやっちゃったんですよね。ダブルピース。

 

― あれって現代の仕草じゃないですか。反対されたり、小言を言われたりとかは?

 

賛否両論ですよ。確かに余計なことだとも思いますし、やらなきゃいけないものでもないですけど。でも、私の中では、あれをすることで、いろいろなことがわかりますよ。ダブルピースを返してくれるお客様が多ければ、私を知ってる人が多いわけですし。それでウケないと、今日のお客さんは緊張気味なのかな、堅いのかなとか。ただ、「あのポーズは、死ぬまでやりたい」とか、「あれは俺の魂で~」とか、そこまでの、そういうもんでもないないですよ。やり忘れるときもありますしね。緊張してて(苦笑)。

 

― まるで一種の測定器ですね

 

はい。今となってはそうです。だからウケなくても、そこでへこたれていてはダメですね。やらないのはいいが、ウケないのは、シーンとなるのは。仮に(今日のお客様は堅い、かてーぞ)と測定しとしても、そこで、(ああ、今日は何をやってもダメなんだ)と思うのは諦めるのは、一番ダメなことです。このダブルピースが一番の芸になっちゃしょうがないわけで。ダブルピースを返してくれるお客様が例えゼロの会場でも(誰も柳家小太郎を知らない会場でも)、そこをなんとか芸の力でがんばりたい。客席を湧かせたい。くつがえせるように。そう思っています。

 

― (みんなダブルピース返し)やるけど(客席の雰囲気が)堅いっていう場合も、きっとあるんですよね

 

ありますよー(笑)。まったくウうけない。何やってんのこいつ?みたいな怖いとき、あります。さーっと引いていく。毎回違いますから、お客さんは。そこが、僕らの楽しいところです。毎回自分らが同じネタやっても、お客さま方は毎回違いますからね。だから成り立っている。

 

― 一人の会(毎月の勉強会「とうとう独り」)だと、そんなことは起きませんよね

 

一人の会は、いわばホーム(グラウンド)ですから。あそこで、ネタおろしをしているのは、そういうわけですから。でも、あそこでも、(やべーな)ってことがあるわけですよ(笑)。あそこは自分目当てで来てる(お客様な)わけですから。あそこでウケなきゃ、他でやってもしょうがない。それでしばらくお蔵入り。

 

― すんなり噺は覚えることができるほうですか?

 

雑にだったら、ぱーっと覚えて、というのは。割とすんなりだと思うんですけど、ちゃんと覚えるまでには、時間が掛かります。ちょこちょこ直すのにも時間が掛かりますね。

 

― 小太郎さんは、どうやって噺を覚えるんですか?

 

聴いて書いて読んで、あとはとにかく、しゃべる。しゃべる方がいいと思います。耳で聴くと(自然と)その師匠の物真似をしちゃうんですよ。だから聞くのは、ほどほどに。でも、もっと耳で聴いたほうがいいのかもしれないなぁ。間とか。真似するのも大事じゃないですか。芸は。

 

― ご自分の声を録音して聴くのは?

 

それも最近ですね。録音機を買うようになってからだから。その前はとにかく、しゃべってるだけでした。

 

― 歩きながら、しゃべったりする噺家さんもいるようですが

 

自分は歩くときは、歩くことに一生懸命です。

 

― 次に覚えようという「ネタ選び」というのは…

 

タイミングですね。気になっていても、すぐに行けない場合もあるし、教えてくれる人ありきですから。その師匠が出てることに気が付いたら教えてもらおう!と。それもまた時期があったりするんですよ。「この師匠の、このネタどうしても教わりてー」と思っても、そのネタが冬のネタで、季節が夏だとします。自分のために、わざわざねえ、その師匠は押し入れから季節外れのネタを引っ張り出してくるようなもんじゃないですか。申し訳ないと思ったりしますし。それでも(どうしても教わりたくて)行くこともありますけどね。

 

ありがたいなと思ったのは、某師匠。いっぱい稽古をつけていただきました。教わりにいく度に「光栄です!」と仰ってくれました。教わる方としては「この世界で、このネタなら、この人が一番面白い」と思うから、教えてほしくて行くわけじゃないですか。だから「光栄です」って言っていただいたのは、とてもうれしかったですね。自分もいつか、誰かが教わりに来たら、「これは俺の売り物だから(教えない、教えたくない)」とケツの穴の小さいことを言わないようにしたいなと思う。「(お前に)演れるもんなら、演ってみな」と教えちゃうくらいの方が好きです。それにしても、いい世界だなあ、ありがたいなぁと思いますよ、タダで教えてもらえるんですからね。

 

― ネタが飛んだことありますか?

 

ありますね。しゃべりながら思い出すんです。真っ白になっちゃうのは最悪なので誤魔化すわけですね。「どうしたんだい」「あれですよ、あれ」とか言いながら(笑)。仕込みを忘れた経験もありますよ。一回、戻りましたよ。隠居さんのところで教わって(あ、やばい。後半のしこみ忘れた!)と思って、もう一回、隠居さんのシーンに戻って、後半のために仕込み直して「行ってきます!」みたいな(苦笑)。酷い話です。もっとちゃんと覚えないと。

 

― でも、そういう場面に出会うと、客としては楽しいですけどね。レアですし。

 

まあ、そうなのかも知れませんが、プロとしては、もうちょっと違う楽しみをプレゼントしたいですね。せっかくお金払って来てくださっているわけですから。

オチとして「くだらねえ」って終わるような軽い噺が好きです。

 ― もっとも好きな噺はなんですか?

 

軽くて馬鹿馬鹿しくて、映像にしてもつまんない噺が好きですね。「馬のす(※)」とか「つる(※)」とか。「町内の若い衆(※)」とか。事件も、大したことも起きない、そんな噺が好きです。文章にしても面白くない、ハリウッド版映画にしてもつまんない、でも落語だと楽しい。そんな落語らしい噺が大好きです。それこそ、話芸ならでは良さかなと思います。“夢オチ”なんか最たるものじゃないですか。いまどき、小説やドラマで“夢オチ”のストーリーなんてやったら大批判ですよ。でも、落語だと、噺にするとちょうどいい。オチとして「くだらねえ」って終わる、それはとても良いことだと思いますよ。だから落語には落語の良さがある。自分は、そういう(落語らしい)ネタが好きです。

 

※ 「馬のす」:うまのす。馬方が馬を置いてどこかに消えた。釣り人は、馬の尻尾を三本抜いて釣糸代わりに。すると…。

※ 「つる」:隠居のところに遊びに来た八っつあん。鶴の掛け軸を見て、その名の由来を教えてもらう。いいことを聞いた!と聞きかじりの状態で外に飛び出すが。

※ 「町内の若い衆」:兄貴の家に増築祝いに寄った熊五郎。お世辞に「兄貴は偉い。働き者だからこんな立派な建て増しができた」と褒めると…。

 

― 今、演っていて一番楽しいのは、どの噺ですか?

 

「癇癪」が楽しいです。夏にやっていて楽しい噺です。噺には時期がありますからね。

 

※ 「癇癪」:かんしゃく。三井財閥の一族で実業家・劇作家の益田太郎冠者が、初代三遊亭圓左のために書き下ろした(当時の)新作落語。神経質で癇癪持ちな大家の旦那は、いつも妻や使用人に口うるさく小言を言うのだが…。

 

― 以前から、くがらくの夏の回にお呼びしたかったんです。小太郎さんにはぜひとも、怪談をやってほしくて。

 

何とでも言い訳できます(笑)。なんなら、やります(笑)

 

―  (秋でも)怪談噺をすることはあるんですか?

 

「豊志賀(とよしが※)」なんて、本当なら11月頃(旧暦)の噺なんですよね。何といっても11月20日の話ですから。冬の噺なんです。昔は暑いから夏に怪談って図式でしたけど、夏の噺じゃない(怪談)噺も多いですから。

 

「鰍沢(※)」?「鰍沢」も、やりましたね。これもすごく難しい噺です。去年の暮くらいかな、師匠に教わって、広い会場で、正太郎さんとの会ですね、そこでネタおろししたんです。結構、一生懸命に覚えたつもりだったんですけど。まあダメですね。まったく。ああいう(難しい)ネタは「好きですか?」と言われれば、自分自身が本当に好きなんだろうか?と考えながらまだやっている段階。(自分と噺との間には)スタート地点に立ってないくらいの距離感を感じます。

 

※ 「豊志賀」:とよしが。明治期の落語家・三遊亭圓朝によって創作された落語(怪談噺)『真景累ヶ淵』(しんけいかさねがふち)全97章の中の一節、「豊志賀の死」とも言う。前半と後半に分かれており、前半部分は特に傑作と名高い。発端部の「宗悦殺し」、深見新左衛門の長男・新五郎が皆川宗悦の次女お園に片恋慕する悲劇「深見新五郎」。そして、新左衛門の次男・新吉と宗悦の長女である稽古屋の女師匠・豊志賀との悲恋が「豊志賀の死」。

※ 「鰍沢」:かじかざわ。身延山への参詣をすませた旅人が、帰りに大雪に遭って山中で道に迷う。偶然見つけた一軒家に転がり込むが…。