ほんの10~15分の時間でも、お客さんをちゃんと「わー」っと湧かせる、笑わすことのできる人。それが理想。

 ― 小太郎さんが思う、二つ目と真打の差、境目とは?

 

(質問項目を事前に)読んでて、どうなんだろうと思ったのですが、真打をまだやったことがないので、(二つ目と真打では)全然違うものであるのは確かで。

 

例えば何ですけども、前座から二つ目になったときに、前日の前座のときは、着物を畳んだり、お茶を出したりするのが遅くなったりすると怒られたりするわけじゃないですか。でも、翌日二つ目に上がった瞬間から「あんちゃんは、もういいんだよ」と言われる。それがこの世界の良さだと思うんですよ。がらりと待遇も、周囲の目も変わる。それはもう、がらりと。

 

だから、それくらい変わりたいと思っています。真打になったら。もう二つ目じゃないんだから、という。“ちゃんとした気持ち”でいたいなと思う。それが具体的に何か、とは言葉に出せないんですけどね。…なんなんでしょうかね

 

― 早く真打になりたいですか?

 

なりたくないです。おっかない。真打、だんだん怖くなってきてます。前座から二つ目に上がったときとは明らかに違うので。次第に怖くなってきましたね。そうは言ってもトリは取りたい。将来は、トリをしっかり取れる芸人でいたい。

 

― 小太郎さんが考える「一流の落語家/理想の噺家」とは?

 

寄席に出てて、短い噺がおもしろくて、ほんの10~15分の時間でも、お客さんをちゃんと「わー」っと湧かせる、笑わすことのできる人。それが理想。

 

自分で一人の会をやっているときに思うんですけど、自分の(ファンである)お客さんの前で、自分が稽古してきた噺で喜んでもらうのは当たり前のような気がするわけです。当然のことだろうと。一方で、素人で落語をやってる人もいっぱいいます。たくさんのお客さんを呼んで、たくさん笑わすことができる人もいっぱいいると思うんです。

 

ですけど、寄席の短い高座時間に、前の出番の人がどんなネタをやるかもわからない、そのネタによって自分もどのネタをやれるかもわからない、時間も決まっていない、それまでの高座時間の合計で変わってくる。そんな難しい、ある意味、相当過酷なライブな状況の中で、ちゃんと仕事して(=お客様を楽しませて)、高座から降りてきて楽屋で「終わったよ~」と言える噺家には相当憧れますね。一流だなと思います。

 

 

侍役が苦手。だって侍、見たことねえんだもん。できねえよ(笑)。

― 今年・来年、これから考えていることはありますか。仕掛けやビジョン、覚えたいネタ、今年やろう/いつかやろうと思っていることなど。聞かせてください。

 

ネタは、みなさんが思うほど、ネタによってのハードルの違いとかないんですよ。「千両みかん」とか「締め込み」なんかは持っていませんので、師匠が元気なうちに教わっておきたいと思っています。徐々に真打に近づいていってるわけで、その点では、ネタのこと以外のことも、ちゃんとやらないな、とは思っています。

 

ネタを覚えることが楽しいというか、苦ではないので、ネタを覚える作業させやってれば、自分でやってる気になってるんですけど、もっともっと広い会場を借りて、ひとりの会をやるとか。お客さんを呼ぶとか。そのあたりのコトもすごい大事になりますし。

 

自分はインターネット関係を含めて、そのあたりのことを怠けてきているので、いろいろな人と関わりをもって、多くの人を巻き込んで・・・っていう作業が、これからどんどん大事になってくると思うんですよね。仲間同士での大きい会はやったりするんですけど、それも誰かに言われたからやろうということですから。はじまりが。これからは自主的にひとりの会を張ってみたいと思いますね。

 

― 今年やります?

 

…か来年か。セルフプロデュースするの、恥ずかしいんですかね。なんか面倒くさいんでしょうね、一番。外部の人が力になってくれるのが一番いいし、助かるんですが。「あなたの会をここでやりたい」というオファーは、待ってても中々来ない。自分で自主的にやってみて、ノウハウや手ごたえを知っておきたいと思います。どのくらい来てくれるんだろう。どういうことできるんだろう。

 

― 最近は、名古屋でもひとり会を。

 

喬太郎兄さんの会をずっと主催している方がいまして、その方がどっかで私を見たんですね。気に入ってくださって、それで毎回呼んでくださるように。で、その流れで、今年からひとりの会を。その会にしたって、やっぱりおんぶに抱っこですよ。自分の名前で誰かが見に来るってのは、少ないわけですから。「お奨めの噺家だから一度来てみてよ」って人を集めて、最初は付き合いで、初回一回とかだったら、割と大勢の方が来てくれかもしれませんけど、定期的にとなると・・・。すごく大変なことだって思いますよ。その大変な作業を他の人にやってもらえるのは、ありがたいことですが、真打になれば、それを自分でやらざるを得なくなります。それだけに、今のうちに体験しておきたいんです。

 

しかし、地方でやると楽しいですよ。こっち(東京)と、反応も雰囲気も全然違うので。同じネタをやっても(お客さんの)雰囲気が違う。こういうところ(落語会)が増えると、ネタがもっともっと増えるんじゃないかと思います。

 

―小太郎さんの演じる女性が好きです。雰囲気が印象に残っているのが小太郎さんの女性です。

 

特に意識はしていませんが、そう言ってもらうとすごくうれしいです。女性を演じるのは楽しいです。特に、女性に言われるのはうれしい。噺と演技とは違うので、決して作りこんでいるわけではなく、時代感が正しくて、当時の女性が喋っているセリフであっても、自分が(嫌だな)と感じるセリフは言わないようにしています。

 

あべこべに、侍などは苦手なんです。見た目と、声質などが(ふさわしい人とそうでない人とが)あると思うんですよね。家で稽古しているときは特別気になっていないんですけどね。意外と女性がしっくりきて、侍が上手くいかないっていうのはなるほどなとは思いますね。だって侍、見たことねえんだもん。できねえよ(笑)。

 

― 稽古は鏡を見ながらやるんですか?

 

ないですね。多分、そういう(風に稽古する)人は、いないと思いますよ。その通りの表情なんて作れないですしね。「うん、この顔がいいな」なんて思わないですよ。表情は、おまけみたいなもんで。

 

― 女性以外では何役が好きとか、楽しいとか、ありますか?

 

いち時期は、子供をよく演ってました。あと、そそっかしい人は好きですね。愛おしいというか、いいなと思います。落語に出てくる粗忽者って、実際には、そこまでそそっかしい人はいないわけですけども、嘘っぽくなく演りたいですね。本当にいそうな感じで演れたらいいなと思います。

 

― 地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん※)とかですかね?

 

なんなんでしょうね、あれ(「粗忽の使者」)。あれを最初教わったとき、モンティパイソン(※)かよ!と思ったんですよ。それに出てくる人。完全に、クレイジーな。でも、大げさに狂ってるって感じではなく、静かに淡々と狂気が滲み出ているみたいな。

 

※ 地武太治部右衛門(じぶたじぶえもん):「粗忽の使者」(そこつのししゃ)出てくる、杉平柾目之正(すぎだいら_まさめのしょう)の家臣。とてつもなく、おっちょこちょい。

※ 「モンティパイソン」:イギリスの代表的なコメディグループ。その不条理で革新的な笑いのスタイルは、あらゆるジャンルのポップ・カルチャーに大きな影響を与え、「コメディ界におけるビートルズ」とも称されるほど。

 

― 最後に、これを読んでいるみなさんにメッセージをお願いします。

 

「くがらく」は、初めてなんで、どんな会かよく知りませんけど、せっかくここまで読んでくれたんだから、ちゃんと見にきてほしいなと思います(笑)。実際に目で見て、「あ、こいつ嘘ばっかついてたんだな」とか、「実力ないのに、こんなことばっか言いやがって」とか、そういうのを確かめてもらいたい。で、傷つかない程度にみんなで噂していただいたら、私としても、喋った甲斐があったなと思います。

 

― 今日は長々と、ありがとうございました!

 

最後に、「今日、いままで喋ったの、全部ウソですよ!」 ったら、面白いなあ(笑)。

 


〔あとがき〕

みなさんは「刷り込み」という現象をご存知でしょうか。卵から孵化したばかりの雛鳥が、目の前を動く物体を親として覚え込み、以後、それに追従し、一生愛着を示す現象などと言われている、あれです。小太郎さんと、さん喬師匠の関係が、まさにそれではないかと感じました。

 

生まれて初めて落語に触れた瞬間に「面白い!」と思った人がいて、その人に付いていきたくて弟子入りして、それ以来、さん喬師匠・さん喬一門に付いて、落語というものをイロハから学び続けているという。高純度で上質な落語を、ひたすら真っ直ぐに吸収し続けて今に至る。それが「柳家小太郎」という噺家なのではないかと。

 

書き起こしてみて、とっても短い2時間(取材)だったのに、こんな情報量があったなんてと思っています。それも、小太郎さんの純粋さと熱量のせいだったのかもしれません。

 

中途半端な知識ですが(お叱りは甘んじて受けます)、「小」のつく名前は縁起が良いのだとか。小さい名前で大きく育つ、とか? とにかく、とにかくです。間違いないのは、小太郎さんの落語は面白いということ。落語界の一翼を担う将来の大看板候補であるということです。 

 

朗らかに、しかし、ざらざらと。真面目に落語を追求している小太郎さん。明るいだけでも、楽しいだけでも、激しいだけでもない「柳家小太郎落語」。真打になったら、きっと名前が変わりますから「小太郎落語」は的を得た表現ではありませんね。真打昇進の頃には、〔何落語〕に進化しているのでしょうか。非常に楽しみです。

 

(インタビュー&撮影:2017年8月吉日)

取材・構成・文:三浦琢揚(株式会社ミウラ・リ・デザイン