春風亭昇也 独占インタビュー(下)

落語のネタについて

―入門して一番最初に覚えたネタは何ですか?
 うちの一門は「子ほめ」をはじめに覚えるのが慣わしです。しかし、うちの一門の「子ほめ」はフルバージョンでも8分しかないんです。寄席では便利なのですが、わき(他の落語会)に行ったときに困るんです。最初の一年位は本当に困りました。また、うちの一門は基本的に前座時代の出稽古(ほかの一門の師匠に噺を教わりに行くこと)が禁止。二つ目が見えてきたらいいんですけど、師匠から教わることしかできない。だから4年間で7~10席くらいしかネタを持っていませんでした。ストックがなかったんですよね。

 以前はよく落語会で、「昇也さん、そろそろほかの噺も…」と言われ続けてました。それで、もうこれは師匠にお願いするしかないと。叱られるの覚悟で腹をくくって師匠んとこ行って「出稽古に行かせてくださいっ!」って行ったら、「あ、いいよー」って軽くOKされて。「ええーーー」って(苦笑)。もっと早くお願いに上がればよかったなと。そこで、文治師匠(当時桂平冶)のところに伺いまして、「まんじゅう怖い」を教わったりなど。

 うちの一門は新作(落語)を重視する一門なので、古典の数(どれだけ古典落語を覚えているのか)は重要視しない一門なんです。月に一本、必ず新作を提出するという決まりがあります。小噺でもなんでも良いんですけどね。とにかく自分で書く癖をつけろというのが、うちの師匠の教育方針です。

 ただ、実際に現場で必要になってくる、お客様に求められる、喜ばれるのは新作よりも古典です。都内では新作も喜ばれるんですが、地方のお仕事で年配の方に喜んでいただけるのは古典です。古典落語をたくさん覚えていないと、とは個人的には思っています。

 「昇太一門(新作落語の得意な昇太師匠の一門)なんだから新作やらないの?」という声は、お客様にもたくさん頂戴するんですけど、僕はこの3年間は古典ばかりを増やそうとやってきました。

 ネタを増やすのに一番役立ったのは「グズグズ寺」(神田松之丞さんらとともに神保町のらくごカフェで定期的に行っているネタおろし勉強会のこと。ネタおろしとは、そのネタを初めてお客様の前で披露すること)ですね。この会のおかげで、半ば強制的に噺を覚えていきました。根が怠け者なので(笑)、こういう仲間との勉強会は欠かせません。

―「成金」誕生ストーリーを語る上で、「グズグズ寺(寺入り前)」は欠かせないと思っているのですが、あの勉強会結成のきっかけはなんだったのですか?
 あれは松ちゃん(神田松之丞さん)が言い出したんですよ。「小笑兄さんのネタおろしが見たい」って。そんな会をやりたいって。ただ、小笑兄さんのネタおろしだけだと会の成立が危ぶまれる、だから脇を固めて欲しいっていって僕と柳若さんに声がかかったという。で、春風亭昇也、春風亭柳若三遊亭小笑、神田松之丞、三笑亭夢七(すでに廃業)の、同じくらいのキャリアの五人で会を始めました。


 あれは大きかったですね。あれがあったから、今の僕のネタ数があるという。「グズグズ」もねぇ。チラシ作ってたのは最初の頃だけで、みんな徐々に、ぞろっぺい(アバウト)になってきて。それでも、いまや。松之丞人気に牽引されてるところはありますが、満員になりますからね。

 とにかく「グズグズ(寺)」はネタ数を増やすのに役立っています。一方、「成金」では地肩(じがた)が鍛えられています。

―落語家の地肩とは?
 例えばある日の「成金」です。顔付け(メンバー構成)が昇々宮治⇒松之丞⇒僕、というのがあって、前の人たちがドカンドカン笑いをとるわけですよ。自分も負けるわけにはいかないじゃないですか。定期的に場数を踏むことは本当に重要だし、さらにその中で

(前の出番の人が受けている・・・。この流れの中で俺はどうすればいいんだ?わぁぁー)

ってぎりぎりまで焦って、もがいて、それで高座に上がると言うのは大変貴重な経験なんです。特に「成金」メンバーは、落語をきれいにやろうという(勇気)よりも、どうやって笑わせるかを考えて仕掛けてくるので、その中で爪痕を残すのは至難の業ですよ。まぁ、お客様としては、そこも楽しいから足を運んでいただいているんでしょうけれども。

―いい意味でガツガツしているのが「成金」メンバーの良さでもありますよね。
 こんなキリキリと胃が痛むような真剣勝負の経験、切磋琢磨ができていることは、本当に奇跡だし、宝物だと思っています。僕は仲間に付いていくのでいまは精一杯ですが、経験知としては本当に増えていますね。噺家の強さ≒経験知、場数(をたくさん踏むこと)だとも思っているので。

昇也さんといえばツッコミ

―先ほど、自分の武器は「ツッコミだ」というお話がありましたが。
 落語家は、掛け合いで笑いとるのが基本苦手なんですね。トークコーナーとか。さらに言うと、ツッコまれることにも慣れていない。ツッコミなんてものは落語家の世界にないからです。

―そう言われると。昇也さんは四六時中おしゃべり好きな噺家、という認識でいましたけど間違っていたかもしれません。昇也さんはツッコミ噺家なんだなと。噺家・フィーチャリング・ツッコミ。加藤ミリヤ featuring 若旦那みたいな。違いますかね。違うかも知れないけれど。
 僕の得意ネタの一つに「寄合酒(よりあいざけ)」がありますが、あれも、ツッコミの目線で、僕なりに構成して話しています。味の良いボケをたくさんかましてくれる登場人物が多いので、この噺はもう次から次へとツッコみどころ満載!まさに、僕にぴったりのネタなんです。(道楽亭で定期的に開催している)「昇也写真館」っていうのも、ツッコミの目線。(ツッコミ)落語家の目線なんです。

 一般的に落語界は、後輩が先輩にツッこむと生意気に思われてしまうんです。でも、漫才の世界だと先輩にツッこまないのは逆に失礼。その慣習のギャップにも入門当時は苦労しました。完全なカルチャーギャップですね。

―(雷門)小助六さんも、高座で仲間や先輩たちを上手にいじったりしますよね。あれもツッコミですよね。
 まさしく。小助六兄さんもそうですね。ただ、兄さんのはソフトでマイルドでやさしい。僕のは兄さんのに比べると鋭角でキツイんです。成金メンバーも、僕の影響なのか、みんな直球です。「あいつ馬鹿でしょ!」とか平気で(笑)。

 A太郎兄さんには「昇也くん、(俺にも)もっとツッコんでよ!」と言われたり。楽なんですよね、ツッコまれるほうは。ツッコまれるだけで、オイシイ。ひと笑いとれる。前座時代、ある落語会で、某師匠(落語芸術協会)にいつものように平気でツッコんでたら、落語協会の人たちがびっくりしてましたからね。(師匠格の先輩に、ツッコミを入れるなんて!ありえない)という感じで。異文化交流です。

―そう考えると、成金ビフォーアフターで落語界にちょっとちがう風が吹き始めたように、昇也ビフォーアフターで落語界に「ツッコミ要素」が入ってきていて、また何かちがう化学反応を起こしているかもしれない。
 もちろん「落語界はお笑い界とはちがう。落語家にツッコミ(スキル)など不要だ」と考える方もいるでしょう。けれども、それが、おかしい・面白い・笑える・楽しいと考える人が大勢いることは「成金」の賑わいが、それを証明し、裏付けていると思ったりもしています。


絵本も書いてみたい。

 娘は絵本が大好きで。絵本を娘に読み聞かせしているんですけど、自分で物語をつくって話して聞かせたりしています。

―おお!まさに創作話芸!SWAの遺伝子!

 例えば、「はなくそはなちゃん」とかですね。「はなくそはなちゃん。今日も、はなちゃんは、はなくそをほじっていました」とか。かみさんには馬鹿じゃないの!って言われますけど、シモネタがウケルんですよ、子どもにはテッパン(間違いがない)ですよ。学校寄席でもそうです。「かあちゃん、パンツ破れたよ!」「また(股)かい」ってド定番の小噺があるじゃないですか。あれなんて「パンツ」って言ったところで、もうドカンドカン受けるんですよ。股までいかない。噺家を甘やかしちゃいけないよと(笑)。

―そんな愛娘が将来、落語家と結婚したいと言ってきたら?
 (間髪を入れずに。喰い気味で。電光石火で)反対します。絶対反対。

―もし成金メンバーから選ぶとすれば?
 居ません。誰も居ません。ろくなのが居ません。まぁ、あえて言えば人によります。誰かしっかり者で、ちゃんとしている人。せめて暮らしに困らないような人なら良い。あえて言うなら音助とか竹もんなら。しっかり者じゃなければダメ。

これからの「昇也」

 

―これからのお話をお聞かせください。

 とにかく、お客様を楽しませる、喜んでいただける噺家になりたいです。

 お金を払って観にきていただいているお客様を何が何でも楽しませよう!という気持ちは「成金」メンバーはみんな共通して持っているんじゃないかなと思います。僕ら噺家にとって落語は日常ゴトですけど、お客様にとっては、とても特殊なこと、非日常的な出来事なわけですよね。そんなときに、キレイにやるだけが能ではないと。「あぁ、楽しかった」「また聞きに来たい」「気持ちよかった、すっとした」とか、なんとかして満足してお帰ししたいなと。それは常に思っています。それを忘れちゃいけないなと。常連さんも大事だし、初めてのお客様もどちらも大切にしていきたい。

 「(お客様に)お金をいただいているからには、楽しんでいただけるように努力しなさい。」

これが、うちの師匠(春風亭昇太)の考えですし、うちの師匠の師匠、大師匠・柳昇師匠(5代目春風亭柳昇)の考えでもあります。どんどんお声掛けください!どこにでも伺って、ぱーぱーしゃべりますので!

 

(完)

=編集部まとめ=
3時間以上のインタビューの中で、昇也さんは “うちの師匠” と何百回言ったのだろう。愛してますね、師匠のことを。噺家さんの師弟愛を聞くのは大変に心温まります。聞き手として、心底、そういう人たちをうらやましく思う瞬間です。いいなぁ、師弟愛。

最後は、その “うちの師匠” が一門の忘年会の最後に必ず言うという例の一言で、〆てみたいと思います。

「それでは、みなさん、来年もプロであるように。」

 

(インタビュー&撮影:2015年11月吉日)

取材・構成・文:三浦琢揚(株式会社ミウラ・リ・デザイン


今回のチラシ(印刷物)の内容です。

春風亭昇也 独占インタビュー(上)
 

以下は、チラシ未掲載。ここでしか読めない昇也さんの声、そして本音。

春風亭昇也 独占インタビュー(中)