柳亭こみち 独占インタビュー(3)

落語愛に満ち満ちた、路半ばのこみち。

― 個人的に、女性噺家さんの中では、群を抜いて、こみちさんが上手いと思っています。

 

 とんでもないことです。これは本当に難しいことで、核心にもなるんですが、お客様は女の人(他の女性落語家)と比べます。でも、男の人といつも闘って勝たなきゃダメなんですよね。ですから、勉強会は男性落語家とやっている会がほとんどです。

 男性噺家はゼロからプラスにしていく作業なんですよ、全てにおいて。何年か前に、こういう人だったなと思う人が、どんどん力つけて、「わ!こんなになってっちゃうんだ」て。みるみるうちに、みんなプラス(+)を重ねていっちゃうんですよね。ところが、私たち女性は、マイナスをゼロにするってところから全て始まるんです。ニュートラルっていうか、プラスにしていくことは、ほんと難しいんですよね。どの噺でも。だからそれを、ハンデなんですけど、でも、ハンデを越えた状態で、(ゼロからプラスにしてる)男性噺家と闘って、闘って勝てるようにならないと生きてはいかれないんですよ。

 うちの師匠にも、いつも「男と闘って勝てる噺家になりなさい」って言われます。では、どうやってどういう噺で攻めていこうかと。私だって古典を真っすぐ(現代風にアレンジしないで演じる)やりたいです。でも、古典を真っすぐやってるだけじゃあ他の男の噺家に勝てないこともあるんですよね。そこで、いつももがいています。だから、時々、新作落語(古典落語とは違う、創作落語のこと)もやったりします。人がこしらえた噺を自分でアレンジして、高座でかけたりしています。いろんなことに挑戦して、トライ&エラーしながら前進している最中です。古典も真っすぐやるし、自分にしかできない噺もやる。そうやって、なるべく引き出しを多くしておいて、ちょっとでも(またこの人の噺、聴きたいな)って思っていただけるようになりたいと思っています。

― 「ウーマンズ落語会」について

 

 先ほどもお話しましたが、女性噺家・柳亭こみちが闘うのは、他の男性の噺家さんでもあると思っています。ですので、私が落語会をどなたかとやる時や、独りで勉強会をやる時には、男の人と闘うということに重きを置いています。高座を「女(のやる落語・女の落語家)」っていうフィルターで見られてしまうと、ちょっと違うかなと思っていまして。上手く表現できないのですが、(男社会で苦労しているのかなという)同情心や、珍しいもの見たさに勝たなきゃいけないと。

 古典をやったり、新作をやったりする上でも、男と闘うことにこだわり続けてきて、なぜ「ウーマンズ落語会」は続けているのか、積極的にやっているのかと言うとですね、あの会は“女性にしかできない噺を、拵(こしら)える会”なんです。女性である自分たちにしかできない噺を作り上げて行こうという会なんです。白鳥師匠(三遊亭白鳥)が書いてくださったり、あるいはそうじゃないルートで拵える場合もあるんですけど、女の人にしかできない、でもちゃんと笑いを取るような噺を作る会なんです。

 白鳥師匠の書いたもの(新作落語・改作落語)って奇想天外なので、白鳥師匠がやれば、そのままいけるンですけど、いざ私がやろうと思うと、それを一から自分の言葉で紡いでいかないと辻褄が合わなくなったりするんですよ。だから今まで高座にかけて残ってるネタ『姫と鴨』とか、『長屋の花見― おかみさん編』、『女泥棒』とか、高座にかけられるようになるまで、ものすごい時間と手間がかかってるんですよね。頭をすごく使いますが、とても良い勉強になっています。

 これまでの古典落語も、そうやって残ってきたのではないかと感じています。自分がやるなら、どうやったら自然に伝わるだろう、おもしろくなるだろうと歴代の噺家たちが考えて話して残ってきたのが古典落語なわけですよね。だから白鳥師匠の噺も、そうやって自分の言葉で紡ぐということが、勉強になっているのです。白鳥師匠が協力してくださる限りは、私のライフワークとして、やっていきたいと思っています。

 特に私がこだわっているのは「江戸の登場人物、古典風な登場人物が出てくる噺」という点です。あえて言えば、創作江戸落語というジャンルになるでしょうか。普通の新作ではなく、私はあくまでも江戸の噺(古典落語の改作・江戸が舞台の新作落語)で勝負したいと思って噺家になっているので、その点はこだわってやっていきたいと思っています。

― 小三治師匠と燕路師匠は別格として。他にも強く影響を受けた噺家さん、どなたか。

 

 影響と言いますか、たくさん稽古をつけてもらったのは三三兄さん(柳家三三)ですね。三三兄さんには本当にお世話になりました。ものすごく。いっぱい売れている人はいるわけですけど、ああやって頭も良くて、頭の良さが心の良さとリンクしていて、(三三兄さんのような)ああいう人は本当に素晴らしいなと思ってみています。

 同じ噺でも、三三兄さんは端正な所作と表情、豊かな表現力で噺の幅をどんどん広げていく。稽古の時、前から見ていると、なんて忠実に、なんて端正な作り方しているんだろうと思います。とても真似はできませんが、ちょっとでも近づきたいと思っています。白鳥師匠がやってらっしゃることも、奇想天外で素晴らしい。白鳥師匠の噺を一度やってしまうと、「ナースコール」というネタもそうなんですけど、そこに出て来る単語一つ一つが奇抜で、もう劇薬みたいなもので。普通の古典落語の場合は、噺が10コも20コもあったら、一つひとつ笑いを取る作業が全然違うんですけども、笑いを取るっていうか、お客さんが見てて笑っちゃうのものとか、(あ― そういう噺だったのか)とほくそ笑むようなのと。

 

 ですけど、白鳥師匠の場合は、もうドカーン!という、爆発的な笑いを起こす言葉を入れていくんですね。そんな白鳥師匠の創作落語は、ハマった場合には、笑いの起こり方が半端じゃないんですよ。ドッカンドッカンと受けると言う体験は、私にとっては刺激的で魅惑的過ぎて(苦笑)。その笑いの爆発力を思い出して、なんとも言えない気持ちになることもあります。(本寸法の古典落語って何だろう)って。白鳥師匠の作られた噺を自分の言葉に直して、自分らしく噺をやるってことにおいては、非常に勉強になっています。たくさんいただいてますね、白鳥師匠からも。

 一方、白酒兄さん(桃月庵白酒)、一之輔兄さん(春風亭一之輔)などは、そういうドカンドカンという笑いを古典落語の中で起こしてるわけです。だから、なおさら、(自分はどうやって、噺をやっていったらいいんだろう)と迷うことも、しばしばです。

「だって噺ってどれも素敵なんですもの。」

― 自分で一番お好きな噺はどれですか?

 

 これがね― 本当に難しい質問で…。時々この質問をいただくんですけど、これ難しいですよね…。だって噺ってどれも素敵なんですもの。噺がよく聞こえるっていうのは演じ手がやっぱりいいからなんですよね。だからその噺が魅力が伝わらなかったり、この噺を好きじゃないと判断されてしまうのは噺に可哀想なんですよね。他の人がやればすごくおもしろい噺かもしれないし。自分がやってうまくいかない場合というのは、自分が悪いわけですし、だから、答えるのは本当に難しいです。喜多八師匠(柳家喜多八)が、落語協会のホームページに「好きな噺:噺はどれも愛してます」って書いてるんですよ。私、あのフレーズがとっても好きです。『噺はどれも愛してます』っていう喜多八師匠のフレーズ、そのまんま引用したい位です。

― こみち風新作について。

 

 私は粋歌さん(すいか、三遊亭粋歌。自分で考えた新作落語を得意としている女性落語家)がやるように、一から噺をストーリーテラーとして組み立てて拵(こしら)える才能は自分にはないと思っているんですよ。でも他の人がベースを作ってくれたものを自分にグーッと引き寄せて、何かやってみたというのは、いろいろあるわけで。ここのとこやってないですけど、どれも苦労してるからなぁ。自分の独演会でかけたことのある『姫と鴨』『長屋の花見― おかみさん編』、これはヒット率は低くはないと。古典を聴きにきたお客さんにも伝えやすい。あと、ちょっと磨けば『女泥棒』とか『奥方様の打掛』、大根売りの噺『鉄火のお千代』、相撲取りの噺『鉄砲のお熊』なども。そういう噺も…もうちょっと私が精進しないといけませんね。

 


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで感じて知ってください。こみちさんの声、そして本音。
柳亭こみち 独占インタビュー(1)
柳亭こみち 独占インタビュー(2)
柳亭こみち 独占インタビュー(4)
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