古今亭駒次 独占インタビュー(1)

満を持してご紹介する、くがらく初の“新作派”の落語家さんです。新作派(新作落語)というのは、古典落語とは違い、自分で噺を創って演る落語のこと。なかでも駒次さんは若手新作派の代表格であり、特徴はストーリーテラー(話のうまい人。 筋の面白さで読者をひきつける作家)としての秀逸さです。また、今回お呼びした理由の一つが何と、「くがらく」の地元・東急池上線を舞台にした噺(名作「鉄道戦国絵巻」)を駒次さんがお持ちであること。こちらも、くがらく初の試み、ネタ出し(※)をお願いしています。

※    ネタ出し:演目を事前に決めて発表しておくこと。一般的に落語は、高座に上がった噺家さんが、その日の客層を見て、即興でネタを出していきます。ちなみに寄席では、前の演者さんとネタが被らない(重複しない)ようにするのが暗黙のルールです。それどころか、泥棒の出てくる噺、廓噺、与太郎噺、子供が出てくる噺など、同じ系統の噺も避けなければ行けません。そのため寄席のトリ(最後に登場する人)に出てくる噺家さんは、たくさんのネタを持っていなければ勤まらないのです。


― 駒次さん、今は新作落語一筋ですけども。以前はあちこちで、例えば「ささはた寄席(※)」などでも古典を。いつからですか?古典(落語)をやらなくなったのは。

 3、4年前からです。最初はささはた(寄席)のお客さんは年配の方が多かったので古典をやる場にしようかと思ってたんですけど。気が変わって。

― 駒次さんの気持ちを変えたきっかけはなんだったのでしょう。

 僕は(一門が)古今亭ですから。近いところで言えば(古今亭)志ん輔師匠(※)とか、(古今亭)志ん橋(※)師匠とか、ああいう古典の、古今亭ってそうじゃないですか。そういう古今亭の名だたる師匠がたが僕が新作を演ることを認めてくれたというのが大きいですね。許されたというか。「お前、新作で行けや」みたいな。

― お墨付きを得たという。

 (落語に関して)正反対の性格と考えの持ち主のお二人なんですが、お二方とも「でもお前、もう新作やっちゃったんだから、もう古典できないんだからね」っておっしゃったんですよ。それを言われて(あぁ、確かにそうだな)って思ったんですね。古典て、昔のやっぱり江戸の感じが命じゃないですか。だからなるほど、そうだろうなと思って。あとは、(自分が真打になった時に、他の噺家たちとちょっとでも戦える方法は、武器は何かな?)と思った時に、やはり僕には新作落語なのかなと。

― 志ん輔師匠、志ん橋師匠は、駒次さんのどの噺を聴いてそう思われたんでしょうか。

 「鉄道戦国絵巻(※)」ですね。

― 駒次さんの(鉄道落語としての)初作品じゃないですか。一作目を聴いてそう思われた、太鼓判押されたなんてすごいですね。「こんなにおもしろい噺を作れるなら君は」と思っていただけたんでしょうね。

 そこのところは、わかんないですけどね。僕としては怒られると思ってましたから(苦笑)。太鼓判というかニヤニヤしながらおっしゃってたんですけどね。「いいよ、お前そっちで(新作落語で)」みたいな。

※    ささはた寄席:駒次さんの地元・笹塚区民会館で隔月で行われている駒次さんの勉強会。
※    古今亭志ん輔:3代目古今亭志ん朝の弟子。「たまごの会」を開催したり、神田須田町に「神田連雀亭」を立ち上げるなど若手育成にも熱心。
※    古今亭志ん橋:六代目しんきょう。3代目古今亭志ん朝の弟子。志ん輔師匠・志ん橋師匠とも、駒次さんの師匠・志ん駒(二代目)の弟弟子。
※    鉄道戦国絵巻:20XX年、東横線が東急電鉄を脱退し、JRに寝返った!東急とJRの戦いを描いた一大叙事詩。駒次さんの記念すべき鉄道落語第一作。

―どこで掛けたんですか?最初。

 確か、ネタおろしは円丈師匠(※)の会ですね。でもまぁ、なんかやったんでしょうね。2人(志ん輔師匠、志ん橋師匠)がいるところで。寄席というか、他の落語会だったと思いますけどね。

― 古典もやって新作も、という両方手がける噺家さんは多いですよね。駒次さんのように「新作だけでいく!」って決めてる方は、そんなに多くないと思うのですが。

 いまは特に(両方する噺家さんは)多いですよね。僕のように決めてる噺家は、そんなにいないかも知れません。実は自分はすごく怠け者で、くじけやすいんです。例えば地方に仕事で行く、客席にはおじいちゃん・おばあちゃんが多い。と、古典やっちゃうわけですよ。楽なほうというか、古典のほうが圧倒的に親しみやすいし、わかりやすいですから。古典と新作を両方やってる時代は、絶対そうしてました。

― でももう、古典はやらないって決めたわけですね。

 はい。「新作しかやらない!」って決めてからは、どんなに新作が受け入れられなさそうなお客さんの前でも新作一筋です。自分で選んでおいてなんですけど、新作って、とてつもない(ウケないときはウケないって)恐怖があるんですよ。ウケなさ加減が半端ない、スコーンというウケなさ(笑)。
 ある会で、70歳の方たちに駅弁の噺(※)をする機会がありまして。最初の駅弁を食べるといった現代的な導入部は、食いついてきてくるんですけど、その後のところですよね。越後屋と駅長が密談してるという件があるんですが、あれの時にわからなくなるみたいなんです。(これ何時代の話なの?)って。ストーリーに付いてきていただけなくなっちゃうんですよね。その瞬間にお客様たちは、ふぁ~っと向こうに行っちゃって、帰ってこない(笑)。

※    三遊亭円丈:えんじょう。創作落語の中興の祖であり、創作落語の革命家。自由な発想で新作落語の世界に旋風を巻き起こし、若手落語家たちにも多大なる影響を与え続けている。
※    「旅姿浮世駅弁」:たびすがた うきよの えきべん。とあるローカル線の駅。地道に駅弁を売り歩くおじさんに、駅の乗っ取りを画策する越後屋の魔の手が襲いかかる。駒次さんいわく「全国駅弁大会などからの仕事を狙って書いた野心作」。駒次さんの名誉のために言っておきますが、とても面白い噺です。

― そこだけ、なんとか理解していただければ…

 はい、大丈夫だと思ってるんですけどね。わかってもらえる噺だろうなとは思ってるんですけど。なかなか難しいみたいで…。でも、覚悟を決めたら、地方でもちゃんと付いてきていただけるようになりましたね。噛んで含めるように(わかりやすく)やれば大丈夫になってきてるので、これを何年も続けていこうと思っています。

― 「鉄道戦国絵巻」は何がきっかけで誕生したんですか?

 円丈師匠と小ゑん師匠(※)がやってらした「無限落語(※)」って会があったんですよ。二つ目になってすぐのときに呼んでいただいて「ネタおろしをやってくれ」と言われて。そのときにできた噺です。実は二日前までは違う噺を作っていました。その時分、役所の人間が経費で卓球台を買って~という事件がありまして、そのような新作落語を書いていたんですが、稽古してても、どうもおもしろくない。(このままではやばいなあ、どうになしなくちゃ)と思ってて直前に生まれたのが、この噺なんです。

― その時から鉄道はお好きだったわけですよね。それまで鉄道の落語をやろうとは思わなかったんですか?

 ま~~ったく思わなかったです。こんなマニアックなものが落語になるなんて思ってもいませんでした。そんな落語、誰も聞かないだろうと。やってもしょうがないだろうと。その時の心境は「無限落語」の高座を乗り切るためだけでした(苦笑)。東急の鉄道の話なんてみんな知らないだろうし、円丈師匠にも怒られるんだろうなあと思いがながら高座にかけたんです。そしたら意外と反応があって…。(おや?)って感じだったんですよ。

― 駒次さんが鉄道の噺をする以前から、小ゑん師匠は鉄道の噺をしてらしたわけですよね。

 はい。「鉄の男」ってネタを演ってたんですけど、作った当時は全然ウケなかったらしいですよ。全然ウケなくて、やらなかったらしいんです。何年間も。ところが、ある時、「黒門亭(※)」でのこと。最前列のお客様で「鉄道ジャーナル」を読んでる人がいる。出番前の小ゑん師匠が「あれ?鉄道お好きなんですか?」「好きなんですよ」。「じゃあ、僕、鉄道の噺を持ってるんで演ってみます」って、黒門亭で高座にかけてみたと。そしたらすごいウケて、(あ!やってもいいんだ)って思って、それからやり始めたらしいんですよ。

※    柳家小ゑん:こえん。天体観望、電気工作、鉄道模型と多趣味で、オタクの世界を語らせたら右に出るものがいない。円丈師匠と並ぶ近代新作落語の先駆者。
※    無限落語:円丈師匠と小ゑん師匠が2006年にはじめた新作落語の会。
※    「鉄の男」:ウルトラディープな鉄道マニアが主人公の新作落語。
※    黒門亭:毎週末の土日に、上野広小路にある落語協会2階で行われる小規模な落語会。40人で満員札止め。

― そういう開拓してくれた人がいての「鉄道戦国絵巻」ですね。

 そうなんです。新作落語自体がそうですからね。先人がいて。散々がんばり続けてというところのあれですもんね。例えば「鉄道戦国絵巻」でいうと、当初、登場人物は全員武士で、キャラの描き分けも割りと平坦だったんです。その辺がちょっとわかりづらかったかと思いますね。
 ところが小ゑん師匠と百栄師匠(※)がアドバイスを下さって。(噺に登場する)新幹線のキャラを公家キャラに変更しました。新作はそこが有難いんですよ。古典の師匠たちはもう権威ですから、お互いのネタや高座をどうのこうの言い合うっていうことはあんまりありません。その一方で、新作は「こうやってみたら?こんな風に変えてみたら?」という同じ目線からのアドバイスがすごくもらえるんです。

― 改編がどんどんできるってことですよね

 しかもお客さんを見ながらどんどん変えていけるんで。それはもういいですよね。新作の世界は不思議ですよ。小ゑん師匠や円丈師匠の噺を舞台袖で聴いていて、師匠が(高座から)降りてきた時に「師匠、あの噺、最高ですね!」という会話ができるんですよ。上の師匠にも下の人間から「おもしろいですよ!あの噺」って言えるという。古典の世界だったら、「おもしれーの当たり前だろ!」って話になるじゃないですか。不思議な感じなんですよね。すごくおもしろいですよね。

― ぜひ、くがらくでは、その「鉄道戦国絵巻」お願いします。

はい。承知しました。ありがとうございます。

 

― 東急に限らず各路線で噺をつくろうとは思わないのですか?

 やらなきゃとは思ってるんです。とりあえず現在、京浜急行が出てくるネタに「泣いた赤い電車」、勝気な女性と都電の運転士のラブストーリー「都電物語」、懐かしいJR東海クリスマスエクスプレスのCMに触発されてつくった「聖夜の下剋上」なんてネタもあります。
 この間は小田急線を題材につくりました。いわゆる漫画の「静かなるドン」方式で、普段はしがない各駅停車の運転士さん、でもほんとはロマンスカーの運転士っていう噺です。最後の方を調整中なんで、そこがクリアできれば高座にかけられるようになると思っています。僕としては最寄が京王沿線なんで京王電鉄のネタもつくりたいと思うんですけど。まだ、手はつけていません。

― 鉄道ネタを一番多く持ってらっしゃるのは駒次さんではないですか?

 もしかすると一番つくっているのは僕かも知れません。こっちでは小ゑん師匠と僕、上方落語では(桂)梅團治師匠と、(桂)しん吉兄さんですかね。お二人は年一回、繁昌亭(※)で会をやってらっしゃいます。

※ 春風亭百栄:しゅんぷうてい ももえ。独特かつ強烈な世界観を持つ新作落語を得意とする。大の猫好き。古典落語も話す。
※ 桂梅團治:四代目かつら うめだんじ。古典落語のほか、大の鉄道ファンであることからの鉄道がテーマとした新作落語も人気が高い。
※ 桂しん吉:駒次さんと同じ“乗り鉄”の噺家さん。
※ 繁昌亭:天満天神繁昌亭。通称「繁昌亭(はんじょうてい)」。上方落語唯一の寄席。


チラシ掲載の文章は、インタビュー記録からの抜粋です。全文は、ここでしか読めません。ぜひ、読んで噛んで味わってください。駒次さんの味。


古今亭駒次 独占インタビュー(2)
古今亭駒次 独占インタビュー(3)
古今亭駒次 独占インタビュー(4)

 

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