三遊亭わん丈 独占インタビュー(3)

「二人来て二人とも弟子になったのは、あなたたちが初めてよ。よっぽど見込みがあるのね」

僕、実はこないだ、自分で持っている高田文夫先生(※)の『落語ファン倶楽部』を見返してみたんです。当時買って読んでいたものを。そしたら巻末の落語家系図に二つ、謎の丸が付いていた。当時、弟子入りしてもいいかなっていう師匠に丸印を付けていたんですね。

 

高田文夫(たかだふみお):放送作家、タレント、演芸評論家。落語好きでも知られ、落語家としての高座名は「立川藤志楼」(落語立川流Bコース所属)。

落語ファン倶楽部:高田文夫編集長による落語雑誌。2005年から2014年までの10年間に21冊発行された。惜しまれつつも終刊。

 

― 誰に付けていましたか?当時は

 

たい平師匠(※)と白鳥兄さんでした。

 

林家たい平(はやしやたいへい):二ツ目昇進直後から頭角を現わし数々の賞を受賞、2000年に柳家喬太郎と二人で真打に昇進。2006年には『笑点』の正式メンバーになり知名度は一気に全国区に。今後の落語界を担う実力者の一人。

 

― へー、そうなんですか。なんか納得しますね。

 

で、その後、円丈に出会って(高座を聞いて)、「あ、僕はこの人の弟子になりたい」と。そう思ったんです。僕は喬太郎師匠のファンでした。もう大好きでした。喬太郎師匠の高座を経由して、たい平師匠と白鳥兄さんを知ったんです。「あ、俺は今弟子入りするために、どの師匠が良いか、師匠を探している期間中だった!」って、師匠探しを忘れてしまうほど、その当時3か月間は喬太郎師匠をず~っと追っかけていました。追っかけまくっていました。でも、不思議と弟子になろうとは思いませんでした。ファンであることと、弟子入りしたいと思う師匠とは違うんだな、とその時感じました。

 

― なるほど。

 

うちの師匠の何が凄いかって。まず台本が凄い。声の出し方とかも凄い。纏っている雰囲気が大好き。品がいい。きれい。テンポが崩れることもないですし。(生き方・生き様と言ったようなライフ)スタイルも好きです。まず、洗える着物を着ない。衣装はぜんぶお内儀さんが選んでる。ここも恰好いい。呉服屋さんが自宅に着物を持ってきてくれるんです。自分から買いにはいかない。持ってきてもらって買うスタイル。今では僕もそうしてるんですけど。師匠のお宅に呉服屋さんが来る。反物の状態で持ってきてくれるんですね。それをお内儀さんが何点か選ぶわけです。すると後日着物に仕上がってできてくる。その後、その高価な上質な着物に、正絹ですよ正絹!そこにお内儀さんが、あの師匠のベロ(唇と舌がデザインされた)のワッペンを縫いつけるわけです。このことって、身内(落語家仲間)からも大変評判が良くてですね。着物においても「古典に新しい風を吹き込ませようとしている」って。

 

お内儀さんも凄い。お内儀さんとしての働きっぷりが、まぁ凄い。師匠の身の回りの世話から、着物の畳み、ご飯の支度まで全部ちゃんとこなすという。しかも、弟子には一切口出ししない。師匠のことはもちろんですけど、お内儀さんも尊敬しています。

 

ふう丈兄さんと僕。自分(円丈)をどっちが奪うか、という状況が楽しくて、面白くて仕方がなかったのがうちの師匠。もう弟子は採らないと言っていますが、僕たちのときのように二人同時に入門希望者が来たら、また面白がって採るかも知れません。「競い合ってたから、お前たち、伸びるのが早かったもんな」って後から言われましたしね。

 

お内儀さん曰く、「これまでのお弟子さん、入門志願の人たちはたいてい二人来てて、そのうちどちらかが脱落して、結局ひとり残る。それが今のお弟子さんたちなのよ。二人来て二人とも弟子になったのは、あなたたちが初めてよ。よっぽど見込みがあるのね」って。落語のことでお内儀さんに言われたのは、これだけですね。もう、それを言われた時はうれしくて、うれしくて。忘れられませんね。

 

師匠・円丈のスタイルは、ストロングスタイル。

― 新作では、どの辺のところを大切になさっていますか?円丈師匠から学んだ事とか。

 

ストロングプレー、パワープレーなところですね。一回俯瞰になるスタイルの落語(※)をする方がいます。世界観から一旦離れて俯瞰で語るスタイル。あれはあれですごく難しい技。一方、師匠・円丈のスタイルは、ストロングスタイル。自分の世界観を一貫して突き通す落語です。このスタイルのほうが、より恰好よく見えたんです。寄席で大爆笑をとっていましたから。兄弟子のめぐろ(※)も「うちの師匠の本(台本、ストーリー)だけで笑わせるところがいいよね、かっこいいよね」と言っていました。

 

※ 一回俯瞰になるスタイルの落語:話し手である落語家が、その世界を俯瞰して、その世界の登場人物であるかのように客観的に見る・しゃべる、噺の中の登場人物が演者にツッコミを入れるスタイル。「お前、今までの流れからよく、その噺に入れるね!」とか、「今の部分、放送できると思っているのか!」「お客さん、付いてきてますか?」など

三遊亭めぐろ:八番弟子。東京都目黒区生まれ。元、玉々丈(たまたまじょう)。二子玉川に住んでいたから。

 

― 最近は?(新作の方面で)

 

個人的には新作落語の面では、今はうちの師匠から離れることにしています。いつかまた改めて学ぶ時期は必ず来るでしょうが、今の僕の段階では学ぶべきことは、しっかり学んだと思っています。現時点では、経験値を溜めきったと思っているので、次の段階へ進もうかと。ロールプレイングゲームでもあるじゃないですか。今自分がいるバトルフィールドは制覇した、行ける場所は行きつくした。クリアした。もっと強くなるためには、次のレベルのバトルフィールドへ進出しなければいけない、みたいなものが。『円丈落語』のカタチは一通り教わった、覚えた、できるようになった。ある一定レベルはクリアした。次は『わん丈落語』をつくる旅、別の世界へ足を延ばさなきゃいけない。そう思っています。

 

僕が思うに新作落語には、本(台本)重視の文化系と、積み上げ式の体育会系があると思うんです。本重視の文化系はゴールまでの(ストーリーの)線をこしらえて、その線の上をきれいに一直線にゴールまで進んでいく。うちの師匠のスタイルですね。上方落語で言うと文枝師匠(※)であるとか。笑いの波が押し寄せてくるアート系が文枝師匠であり、円丈。

 

一方、体育会系は文珍師匠(※)。点と点をどんどん積み重ねていって笑いをつくってゴールまで持って行くスタイル。笑いの波がどかんどかんと起きるタイプ。今僕は新作は文珍師匠のスタイルで行きたいと思っているんです。本重視の文化系、円丈式は学んだので、次のステージでは、ホールで大勢のお客様を爆笑させるレベルにまでパワーアップしたいんです。そのためにも文珍師匠のスタイルのほうが効果的じゃないかと思っているので。小ネタを並べただけだと漫談。でも、文珍師匠は小ネタを沢山積み重ねながら、それを均して、ちゃんとしたストーリーに仕上げて、お客様を満足させる。こっちのスタイルの方が僕にはあっているのかなと。

 

桂文枝(かつらぶんし):六代 桂 文枝。社団法人上方落語協会会長。上方落語の名跡『桂文枝』の当代。師匠が桂小文枝(後の五代目桂文枝)。一般的に上方落語の世界では、単に「六代目」と言えば専ら6代目笑福亭松鶴を指すため「六代 桂 文枝」としている。

桂文珍(ぶんちん):五代目 桂文枝の弟子。1974年には『ヤングおー!おー!』のユニット「ザ・パンダ」(月亭八方・きん枝・4代目林家小染)に参加していた。