三遊亭わん丈 独占インタビュー(7)

覚えたいのは、「居残り(佐平次)」と「なめる」

― ご趣味はなんですか?

 

ないです。前座修業中に全部なくなっちゃいました(※編集部注:インタビュー前半を読んでいただくとわかるとおり、毎日の修行でそれどころではなかったため)。以前は、競馬競輪、賭け事全般だったんですが。琵琶湖がすぐで釣りも子どもの頃は好きでやってましたが、受験のときに止めて以来やってません。今は潔癖が強くなってきているので生の魚を触りたくないですね(苦笑)。僕ギャンブルに強くて、バンドのとき、競馬やパチンコで生活をしてましたからね。ギャンブルの腕前、才覚はある方だと思うんですよ、それで喰ってましたんで(笑)。(これまでの勝ち負けで言うと)競馬だけマイナスで、あとはみんなプラス、勝ってる方が多いですね。

 

― やはり、分析できるから強いんでしょうね、ギャンブル。

 

勝ってましたねぇ。まだ未だに、当時ギャンブルで稼いでいた頃の年収を超えられていませんから。落語家になってから(の年収)。

 

― 座右の銘あるいはモットー、信条を教えて下さい。色紙を頼まれたら、いつも書く言葉であるとか。

 

僕、色紙には『江戸落語、やりまんねん』って書くことが多いです(笑)。あと、宛名も日付も結構ですと言いながら色紙をお願いされた時は『転売禁止』って書きます(笑)。『この色紙 いつかヤフーで 五千円』って書いたこともありましたねー。うーん。好きな言葉・・・座右の名、『うちで寝る』ですかね(笑)。どんなに遅くなっても自宅に帰って自宅で寝るぞ!という決意。

 

― これから覚えたい噺には、どんなものがありますか? 

 

二つ目の最後の目標は「居残り(佐平次)(※)」を覚えること。二つ目の間になんとしてでも「居残り(佐平次)」を恰好よく演りたいですね。(古今亭)志ん朝師匠の居残りが好きですね。実際には(円丈)師匠に教わってみたいです、居残り。

 

師匠曰く、「長い噺というものは、短い古典落語の積み重ねだ。前座噺と言われる短い基礎的な噺を覚えていれば、その積み上げだけでも(長い噺が)できるものだ。長い噺ができないということは、何かできてない前座噺があるってことだ」。かっこいいでしょう?うちの師匠。

 

僕、「芝浜」を持ってるんです。一度見せてみろと言われて、師匠の目の前で演ったことがあります。そしたら師匠が「お前、夫婦モノ(夫婦のネタ)持ってるか?」「はい、この芝浜です」「ばかやろう!芝浜を夫婦モノとは言わねえんだよ」って。「お前、夫婦モノ持ってないのか。やっぱりな。かみさん(の仕草)がおかしいんだよ。変だよ。もう臭くて聞いてられない」って当時(笑)。まだまだ勉強です。

 

※ 「居残り佐平次」:仲間が集まり、品川遊廓で大見世遊びをして散在しよう!ということになったが、みんな金がない。そこで一座の兄貴分の佐平次が俺に任せろと胸をたたく。映画「幕末太陽傳」の原作にもなった噺。大ネタ。

※ 「芝浜」:三遊亭円朝が「酔っ払い、芝浜、財布」から作った三題噺であると言われている(確証はないらしい)。三代目桂三木助の改作が有名で、三木助による名演以降、夫婦の愛情を描いた屈指の人情噺として知られるようになった。年の瀬、年末に演じられることが多い。

 

将来、真打になってからは、噺家としては「なめる(※)」を覚えたいんです。絶対に覚えたい噺はいくつかありますが、その筆頭が「なめる」。六代目三遊亭圓生の十八番の一つなんです。今ですと、小満ん師匠(※)がお演りになっていると思います。圓生全集で読んだ時に衝撃を受けまして。「この噺でお客さんを喜ばせられるんだ!」と思って。艶噺なので若いうちには難しいですから。ある程度の年輪、積み重ねがないと、下(しも)っぽい部分を上品に聞かせられないと思うんです。

 

※ 「なめる」:『今昔物語集』に原型がある、色っぽくもあり、怪談っぽくもある奇妙な艶笑噺(バレ噺)。構成的には「転宅」と似たところも。

※ 柳家小満ん(やなぎや こまん):八代目桂文楽に入門。その後、師匠文楽死去に伴い、五代目柳家小さん一門に移籍。真打昇進で三代目小満ん襲名。当代きっての粋な噺家の一人。

 

「生活感のあることは話したくないというのがポリシー。純粋に噺だけで笑ってもらいたい」

(大好きな)志ん朝師匠が、奥さんやお子さんの出てくる私生活のことをマクラでも話さないので、僕もしません。目標としている一之輔師匠や宮治兄さんは逆にしますでしょう。お二人との差別化を図りたいという狙いもあります。同じことやっていても勝てないぞ、という思いもあって。

 

究極の目標は、私生活語らない、毒吐かない、下ネタ言わない、時事問題語らない。で、純粋に噺だけで笑ってもらいたい。僕の高座を100年後に人が聞いたときでも笑える、そんな高座を目指しています。

 

恐らく、志ん朝師匠はこの条件を満たしていると思うんです。基本的に私生活語らない、身内ネタ言わない、下ネタ言わない、時事問題語らない。

 

「オリジナルスタイルの三大噺をやりたい」

― 今後のビジョン、野望、計画などをお聞かせください

 

自分の中では古典とも新作とも違うジャンルとして捉えているのが「三題噺(※)」。これをもっと進化させてと言いますか、新しいスタイルの、僕なりの三題噺をやってみたい、挑戦してみたいという目標があります。

 

※ 三題噺:寄席でお客様から三つのお題を貰い、それらを絡めて、その場で作る即興の落語。三題噺から生まれ、名作となった最大の例は「芝浜」。その際の3つのお題は「酔漢(酔っ払い」」と「財布」と「芝(の)浜」だった。

 

― と、言いますと?

 

僕はお客様の顔を見ながら話ができるんですね。お客様とクロストークできるタイプ。なので例えば…落語会場で、その場でお客様数名と話をします。笑わせながら会話します。コミュニケーションを重ねる。それがマクラ。一方、その会話をしながらお題を3つ選んでおいて、それで本編(落語自体)に入る、最初のクロストークで得たお客様のエピソードなどを織り交ぜながら。つまり、三つのお題だけではなく、その日、ご来場いただいたお客様のエピソード、時間、空間を共有しながら、いっしょに作り上げる即興創作落語、新しいスタイルの三大噺をやってみたいな、やれないかなと考えています。

 

一般的な三大噺ですと、お題はもらった、私がお題を出したんだくらいの共有感しかないじゃないですか。でもそうじゃなくて、お客様みんなで作りました!っていう大きな共有感覚が欲しいんですね。僕はこういうキャラクターですから、お客様としっかりコミュニケーションして笑っていただきながら、その町のエピソード、個人的な思い出、気持ちなんかの情報を織り込みながら、一緒に作りたいんですよね。面白くないですか?お客様方からお題だけじゃなしにストーリー、ストーリーの断片をいただいて作る創作落語。そういう趣向の会があったら「会場に行って見たい!」って思いません?

 

― 面白そうですね。聞いたことがないスタイルです。

 

実はこのスタイル、逗子での200人規模の独演会で一度やって成功しているんです。元々、兄弟子の勉強会(都内での小規模の会)に出させてもらった際、前座時分、仲入りの15分で同じようなことをやって成功していて、偶々、その会に来ていたお客様が「ぜひ、うちの方(逗子)の会でもやってほしい」と言ってくださって。

 

元からの目標の一つに「三大噺ができるような噺家になりたい」ってのがあるんですが、今はそれをもっと進化させてと言いますか…。

 

― わん丈式三大噺ですね

 

いいでしょ?これは、たい平師匠(の落語に対する考え方)に影響を受けているんです。かわいがっていただいていまして、いろんなお話をうかがって、良い影響を受けています。(落語そのものやお客様に対する)明るく、大きく、開けた部分をたくさん教えていただいています。(今日履いてきた)このジーパンもたい平師匠からの頂き物です。「サイズがあわなかったからあげるよ」って言っていただいて。

 

― 明るい落語のわん丈さん。サービス精神も旺盛ですね。

 

あれ、くがらくさんじゃなかったかな?どこかの取材で言われたんですよね。「地方のスイッチ、池袋演芸場のスイッチ、独演会のスイッチ、新作落語の会のスイッチとか、いろんなスイッチがありますよね」って。こっちも商売、ビジネスですからね。ご来場いただいたお客様に満足してお帰りいただきたい、という気持ちが常にあります。その土地土地、場所場所でお客様は違いますし。ですから、心掛けているのは、お客様の中の最大多数を採るということです。そういった意識が芽生えて来てました。

 

― お客様の中の最大多数を採る?

 

はい。もしかしたら僕の落語が、人生初の落語!って方もいるかもしれません。そんなときに「えー、落語ってこんなにつまらない演芸だったの?がっかり…」とか思われて、マイナスな先入観を持っていただきたくはないんです。ご通家のお客様も大事ですし、落語初のお客様も大事。でも数が同じだったら、落語初のお客様にフォーカスを当てます。今は偶々落語ブーム、若手落語家ブームみたいな、追い風が吹いていますけど、いつまでも吹いているとは限りませんからね。危機感は常に持っています。落語ファンを増やすということも心掛けていきませんと(落語市場が)広がっていきませんから。偶々聞きに来てくれた方に落語ファンになっていただけるようにしたいと思っています。

 

― 最後に、これをご覧になってから、会においでになる、「くがらく」のお客様に一言お願いいたします。

 

きれいな着物を着て、きれいに話します。

 

 

〔あとがき〕

楽しい環境づくりが上手い。空気を『楽しい』に変えていける理論派。

お忙しい合間を縫ってのわずか2時間弱のインタビューだったのですが(くがらく史上最短時間)、“撮れ高(とれだか)”的にはばっちりでした。

 

「アウトプットしているのが楽しい。アウトプットのためのインプットを続けています」というわん丈さんを、まさに独占しての濃密な2時間。思い切り、しゃべり倒していただきました。ありがとうございます。

 

屈託のない明るい笑顔の下から、ちょいちょい覗いたのは、わん丈さんなりのロジック。ロジックもプライドも、プロである以上どの落語家さんもお持ちのはずですが、ここまで論理的に考えて、また、言語化できる若手落語家さんはそうそういないのでは?と感じました。そりゃ、大学から講演してくれと声がかかる訳です。

 

そのように言うと、照れることもなく「いえ、賢くなくていい。賢そうに見られるくらいの賢さでいいんです」ときっぱり。強いお方です。

 

「人の目は常に意識しています」と言うわん丈さんでしたが、その眼は落語界全体と、その未来までを俯瞰して眺めている眼でした。(見つめる視点がとにかく高い!)

 

本日はありがとうございました。当日を楽しみにお待ちしております。

(インタビュー&撮影:2018年3月吉日)

取材・構成・文:三浦琢揚(株式会社ミウラ・リ・デザイン